医療接遇&人材育成の教科書 接遇とは「おもてなし」を形にして伝えること。接遇力を高めるための方法とは?
「接遇」という言葉がありますが、「接客」と混同されることも多く、違いが分かりづらいのではないでしょうか。仕事上、接遇スキルを身に付けるべきなのか迷っている人もいることでしょう。本記事では、接遇の意味やメリット、生かせる仕事、おすすめの習得方法について解説します。
|目次
- 接遇とは、おもてなしを形で伝えること
- 「接遇」とマナー、ホスピタリティ、接客との違い
- 接遇の基本「接遇マナー5原則」
- 「接遇」が求められる職種
- 接遇を身につけるメリット
- 接遇を身につける方法
1.接遇とは、おもてなしを形で伝えること
接遇とは、おもてなしを形にして伝えることです。2020東京オリンピック誘致の際のキーワードにもなった「おもてなし」は、外国人からも注目されている日本独自の強みでもありますが、接遇とはどういうことか、正しく理解するところから始めてみましょう。
1-1.接遇という言葉の意味
接遇という単語の「接」は接する、「遇」は遇する=もてなす という言葉を表しますので、「もてなして接する」=「おもてなし」というイメージを持つことができるかと思います。
ただし、「おもてなし」が接遇であると理解されている方も多いようですが、接遇の文字は、「もてなして「接する」」こと表していますから、実際には、その「おもてなし」を何らかの形(行動)にして伝えることで、初めて「おもてなし」を提供することができます。
逆に言えば、こちら側は「おもてなし」をしているつもりであっても、それが接し方や行動(形)を通して伝わらなければ、相手は「もてなされている」とは感じてもらえない、ということでもあります。ここに「接遇」の奥深さと難しさがあります。
1-2.接遇は、「心」が大事
接遇において大事なのは「心」です。後述する「接遇マナー5原則」のように、礼儀やマナー、接客サービスなど、接遇を身につける上で必要な要素は正しく理解すれば習得することが可能です。
ですが、どんなに優れたテクニックがあっても、「心」が伴っていなければ、接遇とはいえません。相手を思いやる気持ちがなければ、相手が喜んでくれること、相手が求めていることを理解して、そのために必要なことを提供することができません。
逆に、「人のために」「お客様のために」「患者様のために」といった誰かのためにという思いや心を持った方であれば、接遇マナーの基本テクニックを後から習得することで、接遇力を高める人材になることができます。
2.「接遇」とマナー、ホスピタリティ、接客との違い
接遇とは、お客さまの立場に立ち、相手の心に寄り添った対応をすることであり、それを形にして伝えることです。
2-1.マナー
マナーは、日本語では「礼儀作法」とされており、行儀・エチケットなどと同様に、「他人を不快にさせない」で、「お互いが気持ちよく」日常を過ごすために必要なものです。
ビジネス(仕事)シーンにおいて最低限守るべきマナーがビジネスマナーであり、相手への配慮です。
接遇は、相手をもてなすための行動ですから、マナーを身につけた前提で、プラスアルファ相手のために、相手を思いやってできることを形にしていくことになります。
後述する「接遇マナー5原則」がマナーの基本としてご確認いただいても良いでしょう。
2-2.ホスピタリティ
ホスピタリティは、「相手への思いやり」「おもてなし」であり、対価を求めず相手のために行うことであり、その心を表します。接遇が相手の立場と状況に合わせて「おもてなし」をすることであれば、ほぼ同義語として認識していただいても間違いではないでしょう。
「ホスピタリティ精神」や「ホスピタリティの高いサービス」という使われ方をすることから、「心・気持ち」を指していることから、「接遇」は、ホスピタリティが伴った行動ということになります。
2-3.接客
接客とは、あくまでお客さまに失礼のないサービスを提供することであり、たとえば注文された料理をマニュアルに沿ってサーブするのは接客の範疇です。
接遇では、接客よりももう一歩踏み込んだ個別最適の対応を行います。相手に目線を合わせたり、お客さまに合わせた声かけや料理の説明を行ったりするなど、接客にはないホスピタリティが加わります。
「接遇と接客の違い」については別のページでも詳しく解説をしておりますので、よろしければ参考にご覧ください。
3.接遇の基本「接遇マナー5原則」
接客から一歩踏み込んだ「接遇」を身に付けるためには、基本となる5原則を押さえておきましょう。接遇マナー5原則は、「身だしなみ」「あいさつ」「言葉遣い」「表情」「態度」の5つのことを指します。
それぞれの要素をひとつずつ見ていきましょう。
3-1.身だしなみ
身だしなみは、相手から信頼を得るために欠かせません。清潔感のある服装、制服の着こなし方、髪型、メイクなど、自己判断ではなく客観的な視点を基準に整える必要があります。
身だしなみ規定にきちんと沿っているか、機能的で動きやすい服装か、靴は自分のサイズに合っているか、感染予防の観点から安全で衛生的な身だしなみとなっているか、など、職場に合わせたふさわしい身だしなみが求められます。
若い女性に多く見受けられますが、「おしゃれ」と「身だしなみ」を勘違いし、職場や相手にふさわしくない身だしなみとなっていることがありますので、気を付けましょう。
※おしゃれと身だしなみの違いについては別途詳しく解説しております
3-2.あいさつ
あいさつは、ビジネスマナーや接遇において最も基本的な項目です。相手をもてなすための「接遇」以前に必要な最低限の礼儀であり、「できて当たり前」「仕事や人間関係はあいさつから」とされています。
接遇・マナーにおける最も基本的な項目でありますが、接遇面で課題を抱える職場では意外とこの初歩的なあいさつができていません。基本的なことですが、これが徹底できていないと、印象度も上がりません。
3-3.言葉遣い
相手との関係に合わせて「正しい敬語」を使用できているか、適切な言葉を使い分けられているか、といった言葉遣いも大切です。
敬語には、尊敬語・謙譲語・丁寧語といった使い分けが求められますが、正しい敬語の使い方が分からない、と苦手意識を感じられる方も多いようです。
コンビニ言葉、「ら」抜き言葉など、正しい日本語を美しく使うことで、言葉にも気を遣うマナー美人を目指しましょう。
3-4.表情
表情は、その人の内面や雰囲気を表すものです。目元や視線(目の動き)、口角によって印象が変化しますが、「歓迎」や「好意」を伝えるには、明るい笑顔が必要となるでしょうし、親しみやすい雰囲気としたい際には、それに適した表情があります。
たくさんの仕事を依頼されて忙しい際に、「忙しい・・」「声をかけないで・・・」と内面で感じている際には、それが表情として表れてしまいます。
接遇が求められる職種では、「声をかけやすいか」「親しみやすいか」「安心感・優しさが感じられるか」といった点を表情で表現できるとよいでしょう。
3-5.態度
表情と同様に、その人の心の状態が表れるのが「態度」です。壁に寄りかかりながら話をしていたり、お客様や患者様がいるのにスタッフ同士の私語が多い、座っている際に肘をついている、足を組んで横柄な印象を与えている、といった際には、好感度が下がるばかりか、悪い印象を与えてしまうこともあり、クレームにつながってしまうこともあるでしょう。
仕事中であれば「オン」モードで、職場の代表として見られている意識を持つことが求められます。
以上5つの要素が「接遇マナー5原則」と呼ばれるものですが、これらは接遇マナーの基本であり、「よい第一印象」を形成するうえで欠かせないポイントです。
詳しくは、「接遇マナー5原則」のページで詳しく解説しておりますので、よろしければ参考にご覧ください。
なお、当社では、よりよい第一印象に必要な点として、「態度」の項目に含まれることが多い「立ち居振る舞い」を加えた6つのポイントを接遇研修等で紹介させていただいております。
4.「接遇」が求められる職種
接遇スキルがあると、特に役立つのはどのような仕事に就いている人でしょうか。ここでは、接遇が求められる代表的な仕事を3つ紹介します。
4-1.接客業
まず、接遇スキルを生かせるのは接客業です。特に、百貨店やホテル、レストランでは、お客さま側からそれなりの接遇スキルを求められる場合が多いでしょう。飲食店でも、接遇を意識することで、お客さまに良い印象を残せます。たとえば、オーダーを受ける際に料理を運ぶ順番やスピードについて確認することや、再来店してくれた相手に声かけをすること、お客さまが帰るときにはお見送りをすることなども接遇です。大事なのは、お客さま自身に、「次もまたこの店に来たい」と思ってもらうことです。
4-2.介護職
介護現場にも、接遇のスキルが求められています。介護現場では、相手の生活に入って細々としたサポートや体調管理を行います。同じ人でも、日によって体調や気分は異なるものです。また、要望があっても、家族以外には遠慮して言えない場合もあるでしょう。利用者さまに毎日快適に過ごしてもらうためには、何でも気軽に相談できる信頼関係を築くことが大事です。そのためには、相手をよく観察し、適切なコミュニケーションを取るなど、相手の立場に立った接遇を意識するようにしましょう。
4-3.医療職
病気で病院に訪れる患者さんの多くが、不安を抱えています。普段は気丈な人でも、痛みや体調不良によって、ナーバスになっている場合もあります。また、長い待ち時間も患者さんには大きなストレスです。院内スタッフの心遣いで、その不安や緊張、ストレスを和らげてあげることができます。患者さんの気持ちを楽にでき、受付や診察、検査がスムーズに進めば、院内の業務効率化にもつながります。加えて、院内の全員が患者さんと円滑なコミュニケーションが取れているという状況は、適切な診断・治療を後押ししてくれるはずです。
「医療接遇」や「看護師に求められる接遇」については、別ページで詳しく解説しておりますので、参考にご覧いただければ幸いです。
5.接遇を身につけるメリット
従業員には、ぜひ接遇を身に付けてもらうことをおすすめします。ここからは、接遇を身に付けることで期待できるメリットについて説明します。
5-1.仕事がスムーズに進む
従業員が接遇を身に付け、ホスピタリティあふれる対応を行うと、お客さまは居心地が良いと感じます。家族や友人にも店舗のサービスを宣伝してくれたり、リピーターになってくれたりする可能性も高まるでしょう。加えて、お客さまからの高い評価は、従業員のモチベーションアップにつながります。「自分のサービスに満足してくれた」「スキルがついた」などと、やりがいを得ることができれば、主体的に接遇を意識するようになるはずです。つまり、接遇を取り入れることは、お客さまの満足度を高めるだけでなく、結果的に従業員の意識・行動にも変革を起こします。
5-2.差別化になる
接遇をする側・される側の双方にとって居心地が良いと感じられる空間を提供するのは簡単なことではありません。しかし、簡単ではないからこそ、ほかでは体験できない居心地の良い空間は、お客さまにとって重要な付加価値になります。接遇に力を入れ、付加価値を生み出すことは、競合店舗との差別化を図るうえで大変有効です。同業種の店舗がたくさんあり迷ったときにも、「せっかくならば、またあそこに行こう」というように、新たな選択軸として機能するためです。リピーターが多ければ、店舗も活性化していくでしょう。
5-3.クレーム対応に生かせる
接遇スキルを身につけることで、クレーム対応力も高まります。クレームを未然に防ぐこともできるでしょう。今の時代は、従業員の態度やサービスが悪いとSNSですぐに拡散されてしまう可能性が高く、中には炎上するケースも少なくありません。一度損なわれたイメージを回復するのには時間がかかります。接遇スキルがあれば、相手の怒りや不満を最小限に抑えることができ、結果的にリスクマネジメントにつながります。
5-4.プライベートにも生かせる
接遇スキルは、プライベートでも役立ちます。「相手の気持ちを思いやる」「好感を持たれる笑顔を作る」こうしたことができる人は、周囲からとても魅力的に見えます。家族や友人とのコミュニケーションにおいても、接遇を意識することで、より円滑な関係を築けるはずです。特に女性の場合は、接遇を身に付けておくと、冠婚葬祭など仕事以外で生かせる場面が多いでしょう。
6.接遇を身につける方法
接遇のスキルを身に付けたい場合、どんな行動を取っていくのがいいのでしょうか。代表的な習得方法を紹介します。
6-1.顧客心理を考える
接遇において欠かせないのが顧客視点です。お客さまや患者さんが、今どのような状況で何を求めているかなど、顧客心理を想像して、求めていることを先読みして提供できるようになることが重要です。そのためには、傾聴姿勢を心がけましょう。自分の思いを押し付けることは、接遇ではありません。自分が良いと思うことではなく、相手が本当に求めていることを優先できてこそ接遇のプロです。
6-2.書籍やネットの知識を吸収し実践する
接遇の書籍や、ネットの解説サイト、接遇について説明している動画などから、接遇の基本理論を学ぶのも方法のひとつです。ただし、知識をインプットするだけでなく、学んだ知識をアウトプットしていくことが肝心です。意識して実践し、同僚などからフィードバックをもらうようにするといいでしょう。お客さまから評判の良い先輩や上司のやり方をよく観察するのも手です。特別な教材よりも、身近にお手本を見つけるほうが、実践的で効果が高い場合も多くあります。
6-3.研修や講座を受ける
即戦力になりたい人におすすめなのは、外部の研修を受けるという方法です。ロールプレイングやワークショップなどを通して実践し、プロの講師からフィードバックをもらうことができます。ロールプレイングでお客さまの立場を経験してみることで、視野が広がり、想像力も鍛えられるはずです。企業のチーム単位で受講できるものから、個人で受講できるものまで、種類もさまざまですので、どのようなものがあるか調べておくといいでしょう。
記事の執筆者
|医療接遇コンサルタント:乾 裕子
大学卒業後、国内大手航空会社(日本航空)に客室乗務員として勤務。
「看護師の仕事に憧れた」経験と「病院で命を救われた」自身の体験から、医療業界への恩返しを行うため、航空業界で身につけた「おもてなしスキル」や「人材育成・教育手法」を病院・クリニックに提供している。
300床以上の総合病院から地域中核病院、クリニック、歯科医院、調剤薬局まで幅広い医療機関の組織体制と職種に合わせた研修や接遇コンサルティングサービスを提供中。